17ステップ
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STEP 0
基礎
ネットワークとは何か ── 学ぶ順番を決める
目安 1〜2日
このステップの到達点 ── 「ネットワーク」を、機器の名前ではなく役割の集まり として説明できる。そして、これから学ぶ順番がなぜこの順番なのか を言える。ここができていれば、あとの16ステップは地図に地名を書き込んでいく作業になります。
ネットワークとは「相手まで届ける約束ごと」の集まり
ネットワークとは、ケーブルや無線でつながった機器の集まり……と説明されがちですが、それだと本質を外します。実際のネットワークは、「誰が、どんな形で、どの順番でデータを渡すか」という約束ごと の集まりです。この約束ごとをプロトコル (protocol)と呼びます。
郵便で考えると分かりやすくなります。手紙を送るとき、私たちは無意識に何段階もの約束ごとを使っています。封筒に住所を書く (宛先の約束)、ポストに入れる (受け渡しの約束)、郵便局が仕分けて運ぶ (中継の約束)、相手が封を開けて読む (中身の約束)。ネットワークもまったく同じで、役割ごとに別々の約束ごとが積み重なっています 。
いちばん大まかな全体像
あなたのパソコン 見たいサーバー
┌──────────┐ ┌─────┐ ┌──────┐ ┌────────┐ ┌──────────┐
│ ブラウザ │──▶│ 家の │──▶│ 回線 │──▶│ インターネット │──▶│ Webサーバー │
│ │◀──│ルーター│◀──│事業者 │◀──│ (無数の中継) │◀──│ │
└──────────┘ └─────┘ └──────┘ └────────┘ └──────────┘
① ② ③ ④ ⑤
① 何を送るか決める ② 家の中と外を橋渡しする ③ 外まで運ぶ道
④ 世界中の中継を経由 ⑤ 受け取って返事を返す
学ぶ順番は「下から上」がいちばん速い
ネットワークには、物理的なケーブルから、目に見えるWebページまで、層(レイヤー) があります。学習は下の層から順に上へ 登るのが、遠回りに見えていちばん速い道です。理由は単純で、上の層は下の層がすべて正常に動いている前提で成り立っている からです。
ケーブルが抜けていれば、どんなに正しいURLを打っても表示されない
IPアドレスが間違っていれば、DNSは動かない
DNSが引けなければ、HTTPSは始まらない
この依存関係は、そのまま障害のときの切り分け手順 になります。つまり、学習の順番と、実務でのトラブル対応の順番は、まったく同じ なのです。だから下から学ぶと、知識がそのまま仕事の手順になります。
このページの使い方
一周目は読むだけ 。分からない用語があっても止まらず、最後まで読み通してください。
二周目でコマンドを打つ 。各ステップの黒い枠は、あなたのパソコンでそのまま実行できます。
三周目で一問一答 。各ステップの最後にある問いに、声に出して答えてください。答えられなければ、その節だけ読み返します。
コマンドを打つ場所 Windowsなら「コマンドプロンプト」または「PowerShell」(スタートボタンの横の検索窓に cmd と入力)、Macなら「ターミナル」(アプリケーション → ユーティリティ)を開きます。このページのコマンド例は、Windows用とMac/Linux用を分けて示しています。
最初の一歩:自分の端末の設定を見る コピー
# Windows の場合
ipconfig /all
# Mac / Linux の場合
ifconfig
ip addr show
今の時点では
意味の分からない文字列がたくさん出てきます。それで正常です。STEP 3を終えるころには、この画面に出ている項目のほぼすべてを説明できる ようになります。今は「あとで戻ってくる画面」として覚えておいてください。
この分野の「用語の多さ」との付き合い方
ネットワークは、英語の頭文字を取った略語(TCP、IP、DNS、DHCP、ARP ……)が非常に多い分野です。ここで挫折する人がとても多いのですが、対処法ははっきりしています。略語を覚えようとせず、「何をする役目の人か」を一言で覚える ことです。
この表は、ステップを進めるたびに戻ってきてください。10個の役目が言えるようになれば、ネットワークの会話の8割はついていけます。
ふりがな機能について このページは、難しい漢字や英語の略語にふりがな を付けています。画面上部の「ふりがな ON/OFF」ボタンでいつでも切り替えられ、設定は次に開いたときも引き継がれます。読み方を間違えて覚えると、会話で通じない・検索できないという実害が出ます。最初は必ずONで読んでください 。
一問一答
プロトコルとは何ですか。一言で答えてください。
ネットワークを「下の層から」学ぶとよいのはなぜですか。
DNSは何をする役目ですか。
解答を見る
通信のときに双方が守る約束ごと(手順や形式の取り決め)。
上の層は下の層が正常に動くことを前提にしているため。学習順がそのまま障害の切り分け順になる。
名前(ドメイン名)を、通信に使う住所であるIPアドレスに変換する。
このステップは理解できた
STEP 1
基礎
階層モデル ── OSI参照モデルとTCP/IPの4階層
目安 3日
このステップの到達点 ── 7つの層の名前と役割を順に言えて、「今の障害は第何層の問題か」 を口に出せる。実務では、この一言が言えるだけで会話の質が変わります。「つながりません」ではなく「L1は生きていてL3で止まっています」と言えるようになります。
なぜ層に分けるのか
通信の仕事を、役割ごとに層に分けて考える のがネットワークの基本発想です。分ける理由は3つあります。
入れ替えができる :ケーブルを無線に変えても、上の層(Webの表示など)はそのまま動く
分担できる :機器メーカーが違っても、層の境界の約束さえ守れば組み合わせられる
切り分けられる :不具合が起きたとき、どの層で止まっているかを順に確かめられる
3つ目が、実務でいちばん効きます。層は、そのまま点検の順番表 です。
OSI参照モデル(7階層)
OSI参照モデル (オーエスアイさんしょうモデル)は、国際標準化機構が定めた7段階の考え方の枠組みです。実際の通信そのものというより、共通の言葉として使う物差し だと考えてください。下から順に第1層、第2層……と数えます。
覚え方 下から「ぶ・で・ね・と・せ・ぷ・あ 」(物理・データリンク・ネットワーク・トランスポート・セッション・プレゼンテーション・アプリケーション)。ただし丸暗記より、L1=線、L2=隣、L3=道、L4=相手のアプリ、L7=中身 という5つを押さえるほうが実務では役立ちます。L5とL6は、現代のTCP/IPではL7にまとめて扱われることがほとんどです。
実際に使われているのはTCP/IPの4階層
OSIは物差しですが、いま世界中で実際に動いているのはTCP/IPモデル という4階層の体系です。両者の対応を頭に入れておくと、書籍や現場で話が食い違いません。
OSI 7階層と TCP/IP 4階層の対応
OSI参照モデル TCP/IPモデル 具体例
┌─────────────┐
│ L7 アプリケーション │ ┐
├─────────────┤ │
│ L6 プレゼンテーション │ ├──▶ アプリケーション層 ──▶ HTTP / HTTPS / DNS / SMTP
├─────────────┤ │
│ L5 セッション │ ┘
├─────────────┤
│ L4 トランスポート │ ───▶ トランスポート層 ──▶ TCP / UDP
├─────────────┤
│ L3 ネットワーク │ ───▶ インターネット層 ──▶ IP / ICMP / ARP
├─────────────┤
│ L2 データリンク │ ┐
├─────────────┤ ├──▶ ネットワーク ──▶ Ethernet / Wi-Fi
│ L1 物理 │ ┘ インターフェース層
カプセル化 ── 封筒を何重にもかぶせていく
データを送るとき、上の層から下の層へ渡されるたびに、その層の宛先情報(ヘッダー)が前に足されていきます 。これをカプセル化 と呼びます。受け取った側は、下から順に封を開けていきます(非カプセル化 )。
送信するとき、封筒が増えていく
L7 [ データ(HTTPの中身) ]
L4 [TCPヘッダー| データ ]
└ 宛先ポート番号80 など
L3 [IPヘッダー|TCPヘッダー| データ ]
└ 宛先IPアドレス 93.184.x.x など
L2 [Ethernetヘッダー|IPヘッダー|TCPヘッダー|データ|FCS]
└ 宛先MACアドレス(次に渡す隣の機器)
L1 0101110100101110101…(電気信号・光・電波)
ここで最重要のポイントを一つ。IPアドレスは最終目的地、MACアドレスは次に渡す隣の相手 です。宅配便でいえば、IPアドレスは伝票の宛先住所、MACアドレスは「次にこのトラックへ積む」という積み替え指示にあたります。IPヘッダーの宛先は最後まで変わりませんが(NATを除く)、L2の宛先は中継のたびに書き換わります 。この違いが分かると、ルーターとスイッチの役割の差が一気に腑に落ちます。
ここでつまずく人が多い 「IPアドレスがあるのに、なぜMACアドレスも要るのか」。答えは、担当する範囲が違う からです。IPは「東京都〇〇区〇〇1-2-3」という全国共通の宛先、MACは「この配送センターの3番レーンに載せる」という現場の指示です。どちらか一方では届きません。
層を意識して確かめてみる コピー
# L1/L2 が生きているか(ケーブルとリンク状態)
# Windows
ipconfig
# Mac / Linux
ip link show
# L3 が生きているか(IPで相手まで届くか)
ping 8.8.8.8
# L7 が生きているか(名前で引いて中身を取れるか)
curl -I https://www.iana.org
読み取り方
ping 8.8.8.8 が通るのに ping www.iana.org が通らないなら、L3までは正常でDNS(名前解決)だけが壊れている と分かります。層で切ると、原因の範囲が一度に狭まります。これがSTEP 12でやる切り分けの原型です。
一問一答
OSI参照モデルの第3層の名前と、その層の代表的なプロトコルを答えてください。
IPアドレスとMACアドレスは、それぞれ何を指していますか。違いを説明してください。
ルーターは第何層の機器で、スイッチは第何層の機器ですか。
解答を見る
ネットワーク層。代表はIP(ほかにICMP)。
IPアドレスは最終的な宛先。MACアドレスは、次に渡す隣の機器を指す。IPは途中で変わらず、MACは中継のたびに書き換わる。
ルーターは第3層(ネットワーク層)、スイッチは第2層(データリンク層)。
このステップは理解できた
STEP 2
基礎
LANの中身 ── Ethernet・MACアドレス・スイッチ
目安 4日
このステップの到達点 ── 同じ建物の中で、データがどの機器を通って隣の端末に届くか を説明できる。スイッチとハブの違い、VLANが何のためにあるかを、理由つきで言える。
LANとは「同じ範囲で直接話せる仲間の集まり」
LAN (ラン、Local Area Network)は、家や事務所など限られた範囲のネットワーク です。対して、離れた拠点どうしを結ぶ広い範囲のものをWAN (ワン、Wide Area Network)と呼びます。会社でいえば、本社ビルの中がLAN、本社と支社をつなぐ回線がWANです。
LANの中では、ルーターを通らずに直接データをやり取りできます 。この「直接話せる範囲」を、専門用語でブロードキャストドメイン と呼びます。ここを押さえると、あとで出てくるVLANやサブネットの話が全部つながります。
Ethernet ── 有線LANの世界標準
Ethernet (イーサネット)は、有線LANでほぼ唯一使われている規格です。私たちが「LANケーブル」と呼んでいるものは、正しくはツイストペアケーブル といい、カテゴリ(Cat)という等級で速度が決まります。
現場でよくある判断 「とりあえずCat6Aにしておく」が無難です。ケーブルは一度壁の中に通すと引き直しが非常に高くつく ため、機器より長い寿命を見込んで選びます。逆に、端末とスイッチをつなぐ短い線は、Cat5eでも実害はほとんどありません。
MACアドレス ── 機器に焼き付けられた固有の番号
MACアドレス (マックアドレス)は、ネットワーク機器の製造時に割り当てられた12桁の識別番号 です。00:1A:2B:3C:4D:5E のように、2桁ずつ6組で表します。前半3組がメーカーを表す番号 (OUI)、後半3組がそのメーカーの中の通し番号 です。
IPアドレスが「引っ越すと変わる住所」なら、MACアドレスは「変わらないマイナンバー」に近い性質を持ちます。ただし、MACアドレスはLANの中でしか使われません 。ルーターを一つ越えた瞬間に、新しいMACアドレスに書き換えられます。
自分のMACアドレスを見る コピー
# Windows
getmac /v
ipconfig /all
# Mac
ifconfig en0 | grep ether
# Linux
ip link show
プライバシーとMACアドレス スマートフォンは近年、Wi-Fiに接続するとき本物とは違うMACアドレス(ランダムMAC) を使うのが既定になっています。店舗などで行動が追跡されるのを防ぐためです。そのため、会社でMACアドレスによる接続制限をかけていると、スマホがつながらない という問い合わせが起きます。実務でよく遭遇する事象なので、覚えておいてください。
ハブとスイッチ ── 何が違うのか
見た目はどちらも「LANケーブルの差込口がたくさんある箱」ですが、中の動きはまったく違います。この違いは、面接でもよく問われます。
ハブ(L1)とスイッチ(L2)の違い
■ リピータハブ(L1):来たものを全ポートにそのまま流す
┌──── PC-B ← 関係ないのに届く
PC-A ───▶[ハブ]──── PC-C ← 関係ないのに届く
└──── PC-D ← 宛先だけが受け取り、他は捨てる
→ 無駄な通信が多い/同時に話すとぶつかる(コリジョン)
■ スイッチ(L2):宛先MACを見て、必要なポートにだけ送る
┌──── PC-B
PC-A ───▶[SW] PC-C
└───▶ PC-D ← 宛先のポートにだけ送られる
→ 無駄がない/同時に複数の会話ができる(全二重)
スイッチの中にある「MACアドレステーブル」
┌──────┬──────────────┐
│ ポート │ 学習したMACアドレス │
├──────┼──────────────┤
│ 1 │ 00:1A:2B:3C:4D:5E │ ← PC-A
│ 4 │ 00:1A:2B:99:88:77 │ ← PC-D
└──────┴──────────────┘
スイッチは、通信を見ているだけで自動的にこの表を作ります 。「ポート1から来たフレームの送信元MACはこれだった」と記録していくだけです。表にない宛先が来たときだけ、全ポートに流して(フラッディング )返事から学習します。設定なしで賢く動くのは、この学習のおかげです。
いま「ハブ」を新規に買う場面はほぼありません 家電量販店で「スイッチングハブ」として売られているものは、名前はハブでも中身はスイッチです。純粋なリピータハブは、いまや資格試験の中でしか見かけません。ただし用語として区別できること は求められます。
ブロードキャストと、なぜVLANが必要になるのか
ブロードキャスト とは、同じLAN内の全員に向けた呼びかけ です。「このIPアドレスの人、MACアドレスを教えてください」(ARP)のような場面で使われ、ネットワークが動くために欠かせません。
問題は、台数が増えるとこの呼びかけが増えすぎる ことです。200台の端末が同じLANにいると、全員の呼びかけが全員に届き、無駄な処理が増えます。さらに、経理部のパソコンと来客用の端末が同じ範囲にいるのは、セキュリティ上も好ましくありません。
そこで使うのがVLAN (ブイラン、Virtual LAN)です。1台のスイッチの中を、論理的に複数のLANに区切る 機能です。物理的にスイッチを分けなくても、ポートごとにグループを割り当てられます。
VLANで、1台のスイッチを3つのLANとして使う
┌──────────── スイッチ 1台 ────────────┐
│ VLAN 10(社員) VLAN 20(来客) VLAN 30(IP電話) │
│ ┌───┬───┐ ┌───┬───┐ ┌───┬───┐ │
ポート番号 →│ │ 1 │ 2 │ │ 5 │ 6 │ │ 9 │10 │ │
│ └─┬─┴─┬─┘ └─┬─┴─┬─┘ └─┬─┴─┬─┘ │
└────┼───┼───────┼───┼───────┼───┼────┘
PC PC 来客 来客 電話 電話
・VLAN 10 と VLAN 20 の間は、そのままでは通信できない(=分離できる)
・お互いに通信させたいときは、必ずルーター/L3スイッチを経由させる
→ そこでファイアウォールのルールを書ける = 制御できる
VLANは「分ける」のが目的ではありません 本当の目的は「通すところを1か所にまとめて、そこで検査できるようにする」 ことです。分けたうえで、通してよい通信だけをルーターやファイアウォールで許可します。この考え方は、STEP 14のセキュリティ設計にそのままつながります。
一問一答
スイッチは、宛先をどうやって判断していますか。またその情報をどう手に入れますか。
ブロードキャストとは何ですか。増えすぎると何が問題ですか。
VLANを使う目的を、セキュリティの観点から説明してください。
解答を見る
フレームの宛先MACアドレスを見て判断する。届いたフレームの送信元MACとポート番号を記録することで、MACアドレステーブルを自動的に学習する。
同じLAN内の全員に届く通信。増えると全端末が無駄な処理をし、性能が落ちる。
部署や用途ごとに通信範囲を分離し、VLANをまたぐ通信は必ずルーターやファイアウォールを通す形にして、許可・拒否を一か所で制御できるようにするため。
このステップは理解できた
STEP 3
基礎
IPアドレスとサブネット ── ここが最大の山場
目安 1週間
このステップの到達点 ── 192.168.10.0/24 と書かれた表記を見て、使えるアドレスの範囲・台数・ブロードキャストアドレス を即答できる。ここが実務のいちばんの土台であり、初学者が最も時間をかけるべき場所です。焦らず、必ず紙に書いて計算してください。
IPアドレスは「32個の0と1」でできている
ふだん 192.168.1.10 と書いているIPアドレス(IPv4)は、コンピュータの中では32桁の2進数 です。これを8桁ずつ4つに区切り、それぞれを10進数に直して点で結んだものが、見慣れたあの表記です。
10進数と2進数の対応
192 . 168 . 1 . 10
11000000.10101000.00000001.00001010
└─8桁─┘└─8桁─┘└─8桁─┘└─8桁─┘ 合計32桁(32ビット)
8桁の各位が表す数字(ここだけ暗記する)
128 64 32 16 8 4 2 1
1 1 0 0 0 0 0 0 → 128+64 = 192
1 0 1 0 1 0 0 0 → 128+32+8 = 168
ここだけは暗記 128・64・32・16・8・4・2・1 。この8つの数字を覚えるだけで、2進数の変換はすべて足し算になります。逆向き(10進→2進)は、大きい数から順に「引けるか?」を試すだけです。200なら、128引ける(残72)→64引ける(残8)→32引けない→16引けない→8引ける(残0)で 11001000。
ネットワーク部とホスト部
IPアドレスは、前半=どのネットワークか(ネットワーク部) と、後半=その中の何番目の機器か(ホスト部) の2つに分かれています。電話番号の市外局番と加入者番号、住所の「町名」と「番地」と同じ関係です。
どこまでが前半かを示すのがサブネットマスク です。255.255.255.0 のように書くほか、1が立っている桁数で /24 と書く方法(CIDR表記 、サイダーひょうき)もあります。実務では圧倒的に /24 の書き方を使います。
192.168.10.50/24 を分解する
IPアドレス 192.168.10.50
11000000.10101000.00001010.00110010
サブネットマスク 255.255.255.0 (=/24)
11111111.11111111.11111111.00000000
└────── 1が24個 ─────┘└─ 0が8個 ─┘
ネットワーク部 ホスト部
ネットワークアドレス … ホスト部を全部0にしたもの
192.168.10.0 ← 「このネットワークそのもの」を表す。端末には付けない
ブロードキャストアドレス … ホスト部を全部1にしたもの
192.168.10.255 ← 「全員宛」を表す。端末には付けない
端末に使えるアドレス
192.168.10.1 〜 192.168.10.254 の 254個
使える台数の計算
公式は一つだけです。使える台数 = 2のホスト部ビット数乗 − 2 。マイナス2は、ネットワークアドレスとブロードキャストアドレスの分です。
この表は暗記の対象です。とくに /24=254台、/26=62台、/30=2台 の3つは、口をついて出るようにしてください。設計の会話でそのまま使います。
プライベートアドレスとグローバルアドレス
IPアドレスには、インターネットでそのまま使える住所(グローバルアドレス) と、組織の中だけで自由に使ってよい住所(プライベートアドレス) があります。プライベートアドレスの範囲は決められており、これは必ず覚えます。
169.254 で始まっていたら、それは故障です このアドレス(APIPA、エーピーアイピーエー)は、DHCPサーバーから返事がもらえなかった端末が、やむを得ず自分で付けた仮の番号 です。これが出ていたら、ケーブル、スイッチ、DHCPサーバーのいずれかに問題があります。現場で ipconfig を打って169.254が見えたら、その時点で調査範囲が一気に絞れます。最重要の実務知識の一つ です。
手を動かす ── サブネットの計算練習
計算を確かめるコマンド(Linux / Mac) コピー
# ipcalc があれば、答え合わせに便利
ipcalc 192.168.10.50/26
# なければ Python でも確認できる(Windowsでも可)
python3 -c "import ipaddress; n=ipaddress.ip_network('192.168.10.0/26'); print(n.network_address, n.broadcast_address, n.num_addresses-2)"
実行結果の例
192.168.10.0 192.168.10.63 62
一問一答(必ず紙に書いて解いてください)
192.168.20.0/26 のネットワークについて、①使える最初のアドレス ②使える最後のアドレス ③ブロードキャストアドレス ④使える台数 を答えてください。
10.1.5.130/25 のネットワークアドレスは何ですか。
端末のIPアドレスが 169.254.13.200 になっていました。何が起きていると考えられますか。
ルーター同士を結ぶ区間に /30 を使うのはなぜですか。
解答を見る
①192.168.20.1 ②192.168.20.62 ③192.168.20.63 ④62台(/26はホスト部6ビット、2⁶−2=62)。
10.1.5.128。/25は128区切りなので、130は128〜255の側に入る。
DHCPサーバーからIPアドレスを受け取れず、APIPAで仮のアドレスが付いた状態。ケーブル・スイッチ・DHCPサーバーのいずれかに問題がある。
1対1の接続には2つのアドレスがあれば足り、無駄なアドレスを消費しないため。
このステップは理解できた
STEP 4
しくみ
ルーティングとNAT ── 別のネットワークへ出ていく
目安 5日
このステップの到達点 ── ルーティングテーブルを読んで、「このパケットは次にどこへ行くか」 を指でたどれる。デフォルトゲートウェイとNATの役割を、家庭のルーターを例に説明できる。
ルーターの仕事は「次に渡す先を選ぶ」だけ
ルーターは、受け取ったパケットの宛先IPアドレス を見て、自分が持っている表(ルーティングテーブル )と照らし合わせ、次に渡すべき隣のルーター を決めます。それだけです。目的地までの全経路を知っているわけではありません。
これは、道に迷ったときに交番で「次の角を右」と教えてもらうのに似ています。交番はゴールまでの全行程を教えてくれるわけではなく、次にどちらへ進むべきかだけ を教えます。それを各交差点で繰り返すと、いつか目的地に着きます。インターネットは、この仕組みで世界中がつながっています。
パケットが中継されていく様子(宛先IPは変わらない)
PC ────▶ ルーターA ────▶ ルーターB ────▶ ルーターC ────▶ サーバー
192.168.1.10 203.0.113.5
宛先IP 203.0.113.5 203.0.113.5 203.0.113.5 203.0.113.5
↑ 最後まで変わらない(NATがある場合を除く)
宛先MAC ルーターAの ルーターBの ルーターCの サーバーの
MACアドレス MACアドレス MACアドレス MACアドレス
↑ 1区間ごとに毎回書き換わる
TTL 64 ──▶ 63 ──▶ 62 ──▶ 61
↑ ルーターを1つ越えるたびに1減る。0になると破棄される
(ループしたパケットが永久に回り続けるのを防ぐ仕組み)
ルーティングテーブルを読む
あなたのパソコンにも、小さなルーティングテーブルがあります。まず自分のものを見てみましょう。
ルーティングテーブルを表示する コピー
# Windows
route print -4
# Mac
netstat -rn -f inet
# Linux
ip route show
実行結果の例(Linux)と読み方
default via 192.168.1.1 dev eth0 proto dhcp metric 100
192.168.1.0/24 dev eth0 proto kernel scope link src 192.168.1.10
2行目 :宛先が 192.168.1.0/24 の範囲なら、ルーターに頼らず eth0から直接 届ける(同じLAN内だから)
1行目 :それ以外のすべての宛先(default、=0.0.0.0/0)は、192.168.1.1に丸投げ する
この「それ以外は全部ここへ」という投げ先をデフォルトゲートウェイ と呼びます。家庭では、これがWi-Fiルーターのアドレスです。設定がおかしくてインターネットだけ出られない という障害の大半は、ここが間違っているか、届かなくなっています。
ロンゲストマッチ(最長一致) 複数の行に当てはまるときは、より細かく指定されている行が勝ちます 。10.0.0.0/8 と 10.1.2.0/24 の両方に当てはまるなら、後者(数字が大きい=範囲が狭い)が選ばれます。「より詳しい道案内を優先する」と覚えてください。これはルーティングの絶対原則です。
経路の決め方 ── 静的と動的
初学者がまず理解すべきはスタティック 、次にOSPF です。BGPは「インターネット全体の経路交換に使われている」と知っていれば、当面は十分です。
NAT ── 家の中の住所を、外向けの住所に書き換える
プライベートアドレスは、インターネットにそのままでは出られません。そこで、家庭や会社のルーターは、外へ出ていくパケットの送信元アドレスを、自分が持つグローバルアドレスに書き換えます 。これがNAT (ナット)です。
ただし、家の中に10台あるとき、全部を同じグローバルアドレスに書き換えたら、返事がどの端末宛か分からなくなります。そこで、ポート番号も一緒に書き換えて区別 します。これをNAPT (ナプト)、あるいはIPマスカレード と呼びます。家庭用ルーターがやっているのは、正確にはこちらです。
NAPTの変換表(ルーターの中にある)
家の中 ルーター インターネット
┌──────────────┐ ┌──────────┐
│PC-A 192.168.1.10 │──┐ │ Webサーバー │
│PC-B 192.168.1.11 │──┼─▶[変換]─── 203.0.113.7 ─▶│ 93.184.x.x │
│スマホ192.168.1.12 │──┘ └──────────┘
└──────────────┘
ルーターが持つ変換表
┌──────────────────┬──────────────────┐
│ 内側(送信元) │ 外向けに書き換えた値 │
├──────────────────┼──────────────────┤
│ 192.168.1.10 : 51000 │ 203.0.113.7 : 40001 │
│ 192.168.1.11 : 49820 │ 203.0.113.7 : 40002 │
│ 192.168.1.12 : 52310 │ 203.0.113.7 : 40003 │
└──────────────────┴──────────────────┘
返事が 203.0.113.7:40002 宛で戻ってきたら、192.168.1.11 に返せばよい
NATがあるおかげで起きていること
・IPv4アドレスの枯渇が先延ばしにされている(1つのグローバルアドレスを大勢で共有できる)
・外から中の端末に、勝手には接続できない(結果的に簡易な防御になっている)
・逆に、外部にサーバーを公開したいときは、ポート開放(ポートフォワーディング)の設定が別途必要 になる
・オンライン対戦ゲームやビデオ会議で不具合が出るときは、このNATの挙動が原因のことが多い
NATはセキュリティ機能ではありません 「NATがあるから安全」という説明を見かけますが、正確ではありません。外から始まる接続が届きにくいのは副作用 であり、内側から接続を始めてしまえば通信は成立します。マルウェアは内側から外へ接続するため、NATでは防げません。守りは、STEP 14で学ぶファイアウォールの役目です。
一問一答
デフォルトゲートウェイとは何ですか。
ルーティングテーブルに複数の行が当てはまるとき、どれが選ばれますか。
NAPTが、IPアドレスに加えてポート番号も書き換えるのはなぜですか。
TTLは何のためにありますか。
解答を見る
ルーティングテーブルに一致する行がない宛先について、まとめて転送を任せる先のルーター。
ロンゲストマッチにより、いちばん範囲の狭い(プレフィックス長が長い)行が選ばれる。
複数の端末が同じグローバルアドレスを共有するため、返ってきたパケットをどの端末に戻すか区別する必要があるから。
ルーターを越えるたびに1ずつ減り、0になるとパケットが破棄される。経路がループしたときに、パケットが永久に回り続けるのを防ぐため。
このステップは理解できた
STEP 5
しくみ
TCPとUDP、ポート番号 ── どのアプリに渡すか
目安 4日
このステップの到達点 ── TCPとUDPの違いを「なぜ使い分けるのか」 から説明でき、主要なポート番号を空で言える。netstat の出力を読んで、いま何が通信しているか分かる。
ポート番号 ── 建物の中の部屋番号
IPアドレスで「どの機器か」までは決まりますが、1台のサーバーの中ではWebも、メールも、ファイル共有も同時に動いています。そのどれ宛なのか を示すのがポート番号 です。IPアドレスがビルの住所なら、ポート番号は部屋番号にあたります。
0〜65535の番号があり、用途で3つに分かれます。
0〜1023:ウェルノウンポート 。主要なサービス用に予約されている(要管理者権限)
1024〜49151:登録済みポート 。製品やサービスが登録して使う
49152〜65535:動的ポート 。接続するたびに、送信元として自動で割り当てられる
★3つは必ず覚えてください。ファイアウォールの設定でも、障害の切り分けでも、毎日のように出てきます。
TCP ── 確実に届ける、几帳面な運び屋
TCP は、相手に確実に、順番どおりに届ける ことを保証します。そのために、送る前に必ずあいさつ(コネクション確立) をします。これが有名な3ウェイハンドシェイク です。
3ウェイハンドシェイクと切断
クライアント サーバー
│ │
│────── ① SYN(つないでいい?) ──────▶│
│ │
│◀─── ② SYN + ACK(いいよ、そちらは?) ───│
│ │
│────── ③ ACK(了解、始めます) ─────▶│
│ │
│══════ ここからデータのやり取り ══════│
│ │
│────── ④ FIN(終わります) ────────▶│
│◀───── ⑤ ACK ─────────────────│
│◀───── ⑥ FIN ─────────────────│
│────── ⑦ ACK ───────────────▶│
SYN … 接続要求 ACK … 確認応答 FIN … 切断要求 RST … 強制切断
TCPは、届いたことの確認(ACK)が返らなければ自動で再送 し、順番が入れ替わったら並べ直し 、混雑してきたら送る速さを自動で落とします (輻輳制御、ふくそうせいぎょ)。とても賢い代わりに、やり取りが増えるぶん、わずかに遅くなります。
UDP ── 確認しない、速さ優先の運び屋
UDP は、あいさつも確認もせず、投げっぱなしにします 。届かなくても再送しません。乱暴に見えますが、これが正解になる場面があります。
使い分けの理由を一言で 「後から直せるならTCP、後から直しても意味がないならUDP 」。ファイルは1バイトでも欠けたら壊れるので再送する価値があります。一方、ビデオ会議の音声は、0.5秒前の音を今さら送り直しても会話の邪魔になるだけです。だから捨てて先へ進みます。
手を動かす ── いま何が通信しているか見る
通信中のコネクションを一覧する コピー
# Windows(-b はプロセス名も表示。管理者権限が必要)
netstat -ano
netstat -anob
# Mac
netstat -an -p tcp
lsof -i -P | grep LISTEN
# Linux(ss が現代の標準。netstat の後継)
ss -tuln
ss -tanp
実行結果の例と読み方
Proto ローカルアドレス 外部アドレス 状態
TCP 192.168.1.10:52344 93.184.216.34:443 ESTABLISHED
TCP 0.0.0.0:445 0.0.0.0:0 LISTENING
ESTABLISHED :いま通信が成立している。:443 なのでHTTPS通信
LISTENING :接続を待ち受けている状態。0.0.0.0:445 はすべてのネットワークから445番の接続を受け付けている という意味で、セキュリティ上の点検対象
TIME_WAIT :切断直後の余韻。大量にあるなら、短時間に大量の接続が発生している
一問一答
3ウェイハンドシェイクの3つのやり取りを、順に答えてください。
DNSがふだんUDPを使うのはなぜですか。またTCPを使う場面はありますか。
HTTPS、SSH、SMBのポート番号をそれぞれ答えてください。
netstat の出力で LISTENING と表示される行は、何を意味しますか。
解答を見る
SYN → SYN+ACK → ACK。
問い合わせと応答が1往復で終わる小さな通信であり、接続確立の手間をかけないほうが速いため。応答が大きい場合やゾーン転送ではTCPを使う。
HTTPS=443、SSH=22、SMB=445。
そのポートで外部からの接続を待ち受けている(サービスが動いている)ことを意味する。
このステップは理解できた
STEP 6
しくみ
DNS ── 名前を住所に変える、世界最大の電話帳
目安 4日
このステップの到達点 ── 名前解決の流れを、ルートサーバーから順にたどって説明できる。主要なレコードの種類を使い分けられ、DNSが原因の障害を切り分けられる 。実務の障害の体感で2〜3割はDNS絡みです。
なぜDNSが必要なのか
通信に実際に使われるのはIPアドレスですが、人間が 93.184.215.14 を覚えるのは無理があります。そこで、www.example.com のような名前(ドメイン名)を、IPアドレスに変換する仕組み が必要になります。これがDNS です。
DNSは、1台の巨大なサーバーではなく、世界中に分散した階層構造 で動いています。この分散こそがDNSの設計思想であり、ここを理解すると障害の切り分け方が見えてきます。
名前解決の流れ(www.example.com を引くとき)
① あなたのPC
│「www.example.com のIPを教えて」
▼
② DNSキャッシュサーバー(プロバイダや社内にある「聞き役」)
│ ※ここに答えが残っていれば、ここで即返す(キャッシュ)
│
├─③─▶ ルートサーバー(世界に13系統)
│ ◀── 「.com のことは、このサーバーに聞いて」
│
├─④─▶ .com を管理するサーバー(TLDサーバー)
│ ◀── 「example.com のことは、このサーバーに聞いて」
│
└─⑤─▶ example.com の権威サーバー
◀── 「www.example.com は 93.184.215.14 です」(これが正解)
│
▼
⑥ PCに答えを返す + 一定時間(TTL)自分でも覚えておく
・②が答えを探しに行く動きを「再帰問い合わせ」
・③④⑤の各サーバーが「次はここ」と教える動きを「反復問い合わせ」という
この図の意味するところ 「DNSが遅い」と感じるとき、原因は②のキャッシュサーバーであることがほとんどです。⑤まで毎回聞きに行くのは最初の1回だけで、あとはTTLの間キャッシュから返るためです。だから切り分けでは、まず参照先のDNSサーバーを別のものに変えて試す のが定石になります。
レコードの種類 ── 何を答えるかの型
手を動かす ── DNSを引いてみる
名前解決を手動で確かめる コピー
# Windows / Mac / Linux 共通
nslookup www.iana.org
# 参照するDNSサーバーを指定して引く(切り分けの定番)
nslookup www.iana.org 8.8.8.8
# レコードの種類を指定する
nslookup -type=MX iana.org
# Mac / Linux なら dig のほうが情報量が多い
dig www.iana.org
dig iana.org MX +short
dig @1.1.1.1 www.iana.org # 参照先を指定
dig www.iana.org +trace # ルートから順にたどる(学習に最適)
出力で見るところ
ANSWER SECTION に答えがあるか、status が NOERROR か(NXDOMAIN なら名前が存在しない)、TTL が何秒か。この3点を押さえれば、DNS障害の8割は切り分けられます。
キャッシュの確認と消去 コピー
# Windows
ipconfig /displaydns
ipconfig /flushdns
# Mac
sudo dscacheutil -flushcache
sudo killall -HUP mDNSResponder
# Linux(systemd-resolved の場合)
resolvectl statistics
sudo resolvectl flush-caches
TTLと、切り替え作業の落とし穴
TTL (ティーティーエル)は、「この答えを何秒間覚えておいてよいか」 という有効期限です。TTLが3600なら、1時間は世界中のキャッシュサーバーが古い答えを返し続けます。
実務で必ず出会う場面 サーバーを引っ越してIPアドレスを変えるとき、作業の数日前にTTLを短く(300秒などに)しておく のが鉄則です。これを忘れると、切り替え後も何時間も古いサーバーにアクセスが流れ続け、「一部の人だけ繋がらない」という厄介な状態になります。切り替えが終わって安定したら、TTLを元に戻します。この段取りを知っているかどうかで、実務での信頼が変わります 。
hostsファイル ── DNSより先に見られる場所 パソコンには、DNSに聞く前に参照される hosts というファイルがあります(Windows: C:\Windows\System32\drivers\etc\hosts、Mac/Linux: /etc/hosts)。テストで一時的に特定のサーバーへ向けたいときに便利ですが、書いたまま消し忘れると原因不明の障害になります 。「1台だけ挙動が違う」ときは、まずここを疑ってください。
一問一答
再帰問い合わせと反復問い合わせの違いを説明してください。
メールが届かないという相談を受けました。DNS上でまず確認すべきレコードは何ですか。
サーバー移転の前にTTLを短くしておくのはなぜですか。
nslookup の結果が NXDOMAIN でした。何を意味しますか。
解答を見る
再帰問い合わせは、キャッシュサーバーに「答えそのもの」を求める問い合わせ。反復問い合わせは、キャッシュサーバーが各階層のサーバーに「次はどこに聞けばよいか」を順に尋ねていく動き。
MXレコード(あわせてSPF/DKIM/DMARCのTXTレコードも確認する)。
世界中のキャッシュに古いIPアドレスが残る時間を短くし、切り替え直後の混乱を最小限にするため。
その名前が存在しない(登録されていない)こと。綴り間違いか、レコード未作成、あるいはドメインの失効を疑う。
このステップは理解できた
STEP 7
しくみ
DHCP・ARP・ICMP ── 端末がつながるまでの実際
目安 4日
このステップの到達点 ── パソコンをLANケーブルに挿してからインターネットが見えるまでに何が自動で起きているか を、順を追って説明できる。ここが分かると、「つながらない」の原因がどこにあるか見当がつくようになります。
DHCP ── 住所を自動で配る
端末をネットワークにつなぐと、IPアドレス・サブネットマスク・デフォルトゲートウェイ・DNSサーバーが自動で設定されます。これを配っているのがDHCP サーバーです。家庭ではルーターが、会社ではサーバーや上位のスイッチが担当します。
やり取りは4段階で、頭文字を取って「DORA(ドラ)」 と覚えます。
DHCPの4段階(DORA)
クライアント(まだIPを持っていない) DHCPサーバー
│ │
│─① DISCOVER ─────────────────────▶│
│ 「誰かIPアドレスをください」(全員へ叫ぶ=ブロードキャスト)
│ │
│◀─② OFFER ──────────────────────│
│ 「192.168.1.50 でどうですか」(候補の提示)
│ │
│─③ REQUEST ──────────────────────▶│
│ 「それをください」(複数サーバーがいる場合の選択も兼ねる)
│ │
│◀─④ ACK ────────────────────────│
│ 「どうぞ。有効期限は8日間です」(リース期間)
│
└─▶ IPアドレス・マスク・GW・DNS が設定され、通信できるようになる
DHCPの再取得(つながらないときの初手) コピー
# Windows:いまのIPを返して、取り直す
ipconfig /release
ipconfig /renew
# Mac:DHCPリースを更新(システム設定からでも可)
sudo ipconfig set en0 DHCP
# Linux
sudo dhclient -r eth0
sudo dhclient eth0
DHCPサーバーが2台あると事故になります 社員が持ち込んだ家庭用ルーターを、LANポートに逆向きに挿してしまう。これだけでそのルーターがDHCPサーバーとして応答を始め 、周囲の端末に誤った設定が配られます。フロア全体が通信不能になる、実際によくある障害です。対策としてスイッチのDHCPスヌーピング 機能で、許可した口以外からの応答を遮断します。
ARP ── IPからMACを調べる
同じLAN内で相手にフレームを届けるには、相手のMACアドレスが要ります 。しかし手元にあるのはIPアドレスだけです。そこでARP (アープ)を使い、LAN全体に「このIPアドレスの人、MACアドレスを教えてください」と呼びかけます。
ARPのやり取り
PC-A(192.168.1.10)が 192.168.1.20 と話したい
① ARPリクエスト(ブロードキャスト=全員に届く)
「192.168.1.20 の人、MACアドレスを教えてください」
A ──▶ 全員(B、C、D……)
② ARPリプライ(ユニキャスト=Aにだけ返す)
「私です。00:1A:2B:3C:4D:5E です」
B ──▶ A
③ AはARPテーブルに記録し、しばらく再利用する
192.168.1.20 → 00:1A:2B:3C:4D:5E (数分で消える)
ARPテーブルを見る・消す コピー
# 一覧表示(Windows / Mac / Linux 共通に近い)
arp -a
# Windows:ARPキャッシュを消す(管理者権限)
netsh interface ip delete arpcache
# Linux
ip neigh show
sudo ip neigh flush all
IPアドレスの重複を見つける方法 「ときどき通信が切れる」という相談は、IPアドレスの重複 が原因のことがあります。arp -a で同じIPアドレスに対して異なるMACアドレスが現れたり、Windowsが「IPアドレスの競合を検出しました」と警告を出したりします。固定IPを手で設定する運用をしていると必ず起きるため、台帳での管理 が欠かせません。
ICMP ── 通信の様子を知らせる連絡係
ICMP (アイシーエムピー)は、データを運ぶためではなく、通信の状態を知らせるため のプロトコルです。ping と traceroute はこれを使っています。
pingが返らない=壊れている、とは限りません セキュリティ方針でICMPを遮断しているサーバーは珍しくありません(クラウドの初期設定でも遮断が多い)。pingが返らないときは、TCPの該当ポートで試す のが確実です。Windowsなら Test-NetConnection 相手 -Port 443、Mac/Linuxなら nc -vz 相手 443 を使います。
まとめ ── ケーブルを挿してから、Webが見えるまで
L1・L2 ケーブルが挿さり、リンクが上がる。スイッチのランプが点灯する
DHCP DORAの4段階で、IP・マスク・GW・DNS を受け取る
ARP デフォルトゲートウェイのMACアドレスを調べる
DNS 入力されたURLの名前を、IPアドレスに変換する
TCP 相手の443番へ3ウェイハンドシェイクで接続する
TLS 証明書を確認し、暗号化の鍵を決める
HTTP ページの中身を要求し、受け取って画面に描く
この7行が、ネットワーク技術者の共通言語 です。面接でも「URLを入力してからページが表示されるまでに何が起きますか」という形でよく問われます。空で言えるようにしてください。
一問一答
DHCPの4段階を順に答えてください。
ARPは何を何に変換しますか。またその通信はどこまで届きますか。
社内で突然フロア全体が通信不能になりました。持ち込み機器が原因のとき、何が起きた可能性が高いですか。
pingが返らないサーバーの疎通を確認する、別の方法を挙げてください。
解答を見る
DISCOVER → OFFER → REQUEST → ACK(DORA)。
IPアドレスをMACアドレスに変換する。リクエストはブロードキャストなので、同じLAN(ブロードキャストドメイン)の中だけに届く。
持ち込んだルーターが不正なDHCPサーバーとして応答し、誤ったIP設定を配ってしまった。
TCPの特定ポートへの接続を試す(Test-NetConnection -Port 443、nc -vz host 443、curl -I など)。
このステップは理解できた
STEP 8
しくみ
HTTPとHTTPS ── Webページが表示されるまでの全工程
目安 4日
このステップの到達点 ── HTTPのやり取りを自分の手で送れる。TLSが「盗聴・改ざん・なりすまし」の3つ をどう防いでいるかを説明でき、証明書エラーの原因を切り分けられる。
HTTP ── 要求と応答の、単純な往復
HTTP は、「これをください」(リクエスト)と「はいどうぞ」(レスポンス)の往復 だけでできています。中身は人間が読める文字列です。
HTTPのやり取り(実際に流れている文字列)
■ リクエスト
GET /index.html HTTP/1.1
Host: www.example.com
User-Agent: Mozilla/5.0 ...
Accept: text/html
■ レスポンス
HTTP/1.1 200 OK
Content-Type: text/html; charset=UTF-8
Content-Length: 1256
(空行)
<html> ... ページの中身 ... </html>
切り分けの勘どころ 4xxは頼んだ側、5xxは受けた側 の問題です。とくに502と504は、ネットワーク担当が最初に呼ばれる番号 。手前の機器(ロードバランサやプロキシ)は動いているのに、その奥のサーバーが応答していない状態を示すためです。この一言が言えるだけで、対応が速くなります。
HTTPS ── HTTPをTLSで包む
HTTPは中身がそのまま流れるため、途中で読まれます。そこでTLS (ティーエルエス。古い呼び名はSSL)で包んだものがHTTPS です。TLSは3つの問題を同時に解きます。
盗聴を防ぐ(暗号化) ── 途中で見られても内容が分からない
改ざんを検知する(完全性) ── 書き換えられたら受け取り側が気づく
なりすましを防ぐ(認証) ── 相手が本物のサーバーか、証明書で確認する
とくに3つ目が重要です。暗号化だけなら誰でもできますが、「その相手が本物かどうか」は、第三者(認証局)の保証がなければ判断できません 。ブラウザの鍵マークは、この保証が確認できたという意味です。
TLSハンドシェイクの概略
クライアント サーバー
│─ ClientHello(使える暗号方式の一覧)──────▶│
│◀─ ServerHello(使う方式を選択)───────────│
│◀─ Certificate(サーバー証明書を提示)───────│
│ │
│ ① 証明書を検証する │
│ ・信頼できる認証局が署名しているか │
│ ・有効期限内か │
│ ・アクセス先のドメイン名と一致しているか │
│ │
│──── 鍵交換(共通鍵を安全に決める)──────────▶│
│◀═══ ここから先は暗号化された通信 ═══════▶│
HTTPとTLSを手で確かめる コピー
# ヘッダーだけ取得する(状態コードの確認に最適)
curl -I https://www.iana.org
# 通信の詳細を表示(TLSのやり取りも見える)
curl -v https://www.iana.org
# 証明書の中身と有効期限を確認する
openssl s_client -connect www.iana.org:443 -servername www.iana.org
# 有効期限だけを取り出す
echo | openssl s_client -connect www.iana.org:443 2>/dev/null | openssl x509 -noout -dates
証明書エラーの三大原因 ブラウザが警告を出すとき、原因はほぼこの3つです。①有効期限切れ (更新の失敗。最も多い)、②名前の不一致 (example.com の証明書で www.example.com にアクセスしている)、③中間証明書の設定漏れ (ブラウザでは見えるのに、スマホアプリやコマンドからだけ失敗する、という形で現れる)。③は特に気づきにくいので、公開前に外部の検査サービスで必ず確認します。
HTTPSでも隠れないもの TLSは中身を暗号化しますが、「どのサーバーに接続したか」は隠れません 。接続先のIPアドレスと、SNIというしくみで送られるドメイン名は、途中の経路から見えます。「HTTPSだから何も分からない」というのは誤解です。企業のネットワークでアクセス先のドメインが記録できるのは、このためです。
一問一答
502エラーを見たとき、まずどこを疑いますか。
TLSが解決している3つの問題を挙げてください。
証明書の検証で確認される項目を3つ挙げてください。
HTTPSを使っていても、経路上から分かってしまう情報は何ですか。
解答を見る
手前のプロキシやロードバランサは生きているので、その奥にあるアプリケーションサーバーの停止や異常を疑う。
盗聴の防止(暗号化)、改ざんの検知(完全性)、なりすましの防止(サーバー認証)。
信頼できる認証局の署名か、有効期限内か、アクセス先のドメイン名と一致しているか。
接続先のIPアドレスと、SNIで送られるドメイン名。通信量やタイミングも観測できる。
このステップは理解できた
STEP 9
構築
無線LAN ── 見えない電波を、見えるように扱う
目安 4日
このステップの到達点 ── 「Wi-Fiが遅い」という相談に対して、周波数帯・チャネル・電波干渉・端末数 の観点から原因を挙げられる。暗号化方式を安全な順に並べられる。
規格と世代 ── 数字の読み方
Wi-Fi の正式名称はIEEE 802.11 (アイトリプルイー はちまるにいてんいちいち)です。末尾のアルファベットが世代を表しますが、分かりにくいため、近年はWi-Fi 6 のような通し番号でも呼ばれます。
2.4GHzと5GHz ── 性格が正反対
2.4GHz帯 遠くまで届く
壁を回り込みやすく、広い範囲をカバーできる。ただし電子レンジ・Bluetooth・コードレス電話と同じ帯域 で干渉が多く、使えるチャネルが少ない(実質3つ)。速度も出にくい。
5GHz帯 速いが届きにくい
干渉が少なく速い。チャネルも多い。ただし壁や床に弱く 、距離が伸びない。一部のチャネルは気象レーダーを検知すると自動で移動する(DFS)ため、その瞬間に通信が数十秒途切れることがある。
6GHz帯 いちばん空いている
Wi-Fi 6E以降で使える新しい帯域。既存機器がいないため干渉が非常に少ない。対応端末が必要で、届く距離は5GHzよりさらに短い。
2.4GHzのチャネル設計 日本で使える1〜13チャネルのうち、電波が重ならないのは1・6・11の3つだけ です。隣り合うチャネルは互いに干渉します。事務所に複数のアクセスポイントを置くときは、この3つを繰り返し配置します。「空いているから3チャネルにしよう」は、1と6の両方を邪魔する最悪の選択 です。
アクセスポイントのチャネル配置(2.4GHz帯)
○ 正しい配置 × 悪い配置
┌─────┬─────┬─────┐ ┌─────┬─────┬─────┐
│ ch1 │ ch6 │ ch11│ │ ch1 │ ch3 │ ch6 │
└─────┴─────┴─────┘ └─────┴─────┴─────┘
電波が重ならない ch3 が ch1 と ch6 の
→ 3台とも本来の速度が出る 両方に干渉して全部遅くなる
※ 5GHz帯はチャネルが多いので、この制約はゆるい
暗号化と認証 ── 安全な順に
会社のWi-Fiで、共有パスワードが危険な理由 全員が同じパスワードを使う方式(PSK)では、退職者が出るたびに全端末のパスワードを変えなければ 安全を保てません。現実には変えないので、鍵は流出し続けます。Enterprise方式なら、退職者のアカウントを止めるだけで済みます。「人が入れ替わる組織ほどEnterprise」 と覚えてください。
「Wi-Fiが遅い」への向き合い方
まず確認 有線でも遅いか? 有線でも遅ければ、Wi-Fiの問題ではありません (回線か上位側)
電波強度 端末に表示される強度(RSSI)。−70dBmより弱い と実用が厳しい
干渉 近隣のアクセスポイントと同じチャネルになっていないか。スマホアプリでも調べられる
端末数 1台のアクセスポイントに何台ぶら下がっているか。目安は20〜30台まで 。会議室に人が集まると起きる
帯域 古い端末が2.4GHzで低速通信していると、全体の速度を引き下げる
上流 アクセスポイントとスイッチをつなぐ線が1Gbpsのままではないか(Wi-Fi 6には不足)
無線の状態を調べる コピー
# Windows:接続中の無線情報(信号品質・チャネル・速度)
netsh wlan show interfaces
# 保存されているプロファイルの一覧
netsh wlan show profiles
# 近くのアクセスポイントを一覧(BSSIDと信号強度)
netsh wlan show networks mode=bssid
# Mac(Option キーを押しながらWi-Fiアイコンでも詳細が見えます)
system_profiler SPAirPortDataType
# Linux
iwconfig
nmcli device wifi list
一問一答
2.4GHz帯で、互いに干渉しないチャネルを3つ挙げてください。
2.4GHzと5GHzの長所・短所を、それぞれ一言で説明してください。
社員が入れ替わる会社で、WPA2-PSKよりEnterprise方式が望ましいのはなぜですか。
「Wi-Fiが遅い」と相談されたとき、最初に確認すべきことは何ですか。
解答を見る
1・6・11チャネル。
2.4GHzは遠くまで届くが干渉が多く遅い。5GHzは速く干渉が少ないが、壁に弱く距離が短い。
PSKは全員が同じ鍵を共有するため、退職者が出るたびに全端末の再設定が必要になる。Enterpriseは個人ごとの認証なので、アカウントを停止するだけで済む。
有線接続でも遅いかどうか。有線でも遅ければ、原因は無線ではなく回線や上位側にある。
このステップは理解できた
STEP 10
構築
機器と回線 ── 何をどこに置くのか
目安 5日
このステップの到達点 ── ネットワーク機器の役割を層と結びつけて説明でき、構成図を見て「この箱は何をしているか」が全部言える 。回線の種類と、選ぶときの判断軸を持つ。
機器の役割を、層で整理する
リピータ/ハブ L1
信号をそのまま増幅・分配するだけ。中身を見ない。現在の新規導入はほぼない。
スイッチ(L2) L2
MACアドレスを見て、必要なポートにだけ転送。VLANで分割できる。事務所の各フロアに置く主役。
L3スイッチ L2+L3
スイッチにルーティング機能を足したもの。VLAN間の通信を高速に処理 する。社内の中心に置く。
ルーター L3
異なるネットワークをつなぐ。NAT、WAN側の接続、経路制御を担当。拠点の出入口に置く。
ファイアウォール L3〜L7
通してよい通信を判断して遮断する。UTMは、これにウイルス対策やWebフィルタを足した製品。
ロードバランサ L4/L7
複数のサーバーに負荷を振り分ける。1台落ちても切り離して運転を続けられる。
プロキシ L7
端末に代わって外部と通信する。アクセス先の記録、フィルタリング、キャッシュに使う。
無線アクセスポイント L1/L2
電波と有線をつなぐ。多数を置く場合はコントローラ で集中管理する。
ルーターとL3スイッチの使い分け どちらもルーティングをしますが、ルーターはWAN側(外との接続、NAT、多様な回線に対応) 、L3スイッチは社内側(VLAN間を高速に、多数のポートで) が得意です。「外向きはルーター、内向きはL3スイッチ」と覚えると、構成図の意図が読めるようになります。
小規模オフィスの典型的な構成
社員30〜50名規模の、標準的な構成
インターネット
│
┌─────┴─────┐
│ ONU(回線終端) │ ← 回線事業者の機器
└─────┬─────┘
│
┌────────┴────────┐
│ ルーター/UTM │ ← NAT・ファイアウォール
│ (WAN: 203.0.113.7) │ VPNの出入口
└────────┬────────┘
│
┌──────────┴──────────┐
│ コアスイッチ(L3スイッチ) │ ← VLAN間ルーティング
│ VLAN10/20/30/99 の集約 │
└───┬──────┬──────┬───┘
│ │ │
┌─────────┘ │ └─────────┐
┌─────┴─────┐ ┌──────┴──────┐ ┌─────┴──────┐
│ フロアSW 1F │ │ フロアSW 2F │ │ サーバー用SW │
└──┬────┬───┘ └──┬─────┬───┘ └──┬─────┬──┘
│ │ │ │ │ │
PC 無線AP PC 無線AP NAS 業務サーバー
VLAN設計例
VLAN 10 社員用 192.168.10.0/24
VLAN 20 来客用 192.168.20.0/24 ← 社内へは通さない
VLAN 30 サーバー 192.168.30.0/24
VLAN 99 管理用 192.168.99.0/24 ← 機器の設定画面はここだけ
この図が読めて、自分で描けるようになれば、構築の打ち合わせに参加できます 。まずは自分の職場や自宅の構成を、この形式で描き出してみてください。それが最良の練習になります。
回線の種類
PPPoEとIPoE ── 「夜だけ遅い」の正体 光回線でインターネットに出る方式には2つあります。PPPoE (ピーピーピーオーイー)は古くからの方式で、事業者の設備(網終端装置)に接続が集中し、夜間に極端に遅くなる ことがあります。IPoE (アイピーオーイー)はこの集中点を通らないため、混雑に強い方式です。「夜だけ遅い」という相談は、この切り替えで解決することが非常に多く、実務で真っ先に確認する定番 です。
ベストエフォートの意味を、正しく伝える 「1Gbpsの回線なのに200Mbpsしか出ない」という苦情はよくありますが、ベストエフォート型は「最大値であって保証値ではない」 契約です。速度を約束させたい業務があるなら、帯域確保型を選ぶしかありません。この説明ができることも、実務では立派な仕事です。
機器を選ぶときの判断軸
ポート数 :現在の台数+将来の増加分+予備。埋まってから買い足すと配線が乱れます
PoE対応か :無線APやIP電話、カメラはLANケーブルから給電(PoE) できると配線が激減します
管理機能 :VLANやログが必要なら「インテリジェントスイッチ」。単なる分岐なら安価なもので足ります
冗長性 :電源が二重化できるか、機器を2台構成にできるか
保守 :故障時に何日で代替機が届くか。ここが実務では最重要 で、値段より優先されることがあります
一問一答
ルーターとL3スイッチは、それぞれどんな場面で使い分けますか。
PoEとは何ですか。何がうれしいですか。
「夜だけインターネットが遅い」という相談に対し、回線の観点でまず何を確認しますか。
VLAN 99 を「管理用」として分ける狙いは何ですか。
解答を見る
ルーターは外部との接続(WAN、NAT、VPN)に、L3スイッチは社内のVLAN間を高速に転送するために使う。
LANケーブルを通じて電力も供給する仕組み。無線APやIP電話、カメラに電源工事なしで給電でき、設置の自由度が上がる。
接続方式がPPPoEかIPoEか。PPPoEなら混雑による低下の可能性が高い。
機器の設定画面へ到達できる範囲を限定し、通常の業務用ネットワークから侵入されないようにするため。
このステップは理解できた
STEP 11
構築
設計と構築 ── アドレス設計・冗長化・IPv6
目安 1週間
このステップの到達点 ── 白紙の状態からアドレス設計表を自分で書ける 。冗長化の代表的な手法を挙げ、それぞれ何の故障に備えるものかを説明できる。
アドレス設計 ── 最初に決めて、後から変えない
ネットワーク構築で、後から変更するのが最も大変なのがIPアドレス設計 です。機器は交換できますが、アドレス体系を変えると、サーバー、プリンタ、ファイアウォールの設定、業務システムの接続先まで、すべてを直すことになります。だから最初に、余裕をもって決めます。
設計の原則を4つ
① VLAN番号と第3オクテットをそろえる (VLAN 10 なら 192.168.10 .0/24)。障害対応のとき、アドレスを見た瞬間に用途が分かります。
② ゲートウェイは必ず .1 に統一 する。あるいは .254 に統一する。混在させないこと。
③ DHCPの範囲と固定の範囲を、はっきり分ける 。重なると必ず事故が起きます。
④ 拠点が複数あるなら、拠点ごとに第2オクテットを変える (本社192.168.x.x、大阪192.169…ではなく、10.1.x.x/10.2.x.x のように10系で設計するのが定石)。
使ってはいけないアドレスの選び方 家庭用ルーターの初期値である 192.168.0.0/24 と 192.168.1.0/24 は、会社では避けるのが無難 です。理由は、社員が自宅からVPNで接続したとき、自宅と会社のアドレスが衝突して通信できなくなる ためです。在宅勤務がある組織では、これは実害のある問題です。
冗長化 ── 1つ壊れても止めない
ループ事故 ── 現場で最も多い大規模障害 スイッチのポートに、同じスイッチの別ポートへLANケーブルを挿してしまう 。たったこれだけで、ブロードキャストが無限に増殖し(ブロードキャストストーム)、フロア全体、ときには全社が数分で通信不能 になります。掃除や席替えのあとに起きがちです。対策は、STPを有効にすること、そして使わないポートを閉じておく ことです。
IPv6 ── 避けて通れなくなってきた
IPv4のアドレスは約43億個で、すでに枯渇しています。そこで、128ビット(事実上無尽蔵)のIPv6 への移行が進んでいます。表記は 2001:db8::1 のように、16進数を : で区切ります。
0の省略 :連続する0のかたまりは :: で1回だけ省略できる
NATが要らない :全端末にグローバルアドレスを付けられる(だからファイアウォールがより重要 になる)
ブロードキャストがない :マルチキャストで代替される
自動設定 :ルーターの広告(RA)を受け取り、端末が自分でアドレスを作れる
実務での現実的な向き合い方 多くの企業内ネットワークは、当面IPv4のままです。しかしインターネット接続(IPoE)ではIPv6が使われており 、家庭ではすでに標準です。初学者は、①表記が読める ②IPv4と併用(デュアルスタック)されていることを知っている ③トラブル時に ping -6 で切り分けられる、の3点をまず押さえてください。
IPv4/IPv6を分けて確認する コピー
# Windows
ping -4 www.google.com
ping -6 www.google.com
netsh interface ipv6 show address
# Mac / Linux
ping -4 www.google.com
ping6 www.google.com
ip -6 addr show
切り分けのヒント
「特定のサイトだけ表示が異常に遅い」とき、IPv6で接続を試みて失敗し、IPv4に切り替わるまでの待ち時間 が原因のことがあります。-4 を付けて速くなるなら、IPv6経路に問題があると判断できます。
一問一答
会社のネットワークで 192.168.1.0/24 を避けたほうがよいのはなぜですか。
VRRPは何のための仕組みですか。
スイッチのポートにケーブルを環状に挿してしまうと何が起きますか。防ぐ仕組みは何ですか。
DHCPで配る範囲と、固定IPで使う範囲を分けるのはなぜですか。
解答を見る
家庭用ルーターの初期値と同じため、在宅勤務者がVPN接続したときに自宅側のネットワークと衝突するから。
2台のルーターで1つの仮想IPアドレスを共有し、片方が故障しても自動的にもう片方が引き継ぐことで、デフォルトゲートウェイを止めないための仕組み。
ブロードキャストが無限に増殖するブロードキャストストームが発生し、通信不能になる。スパニングツリー(STP)で片方の経路を論理的に遮断して防ぐ。
同じアドレスが二重に使われるのを防ぐため。重なるとIPアドレスの競合が起き、断続的な通信障害になる。
このステップは理解できた
STEP 12
運用
トラブルシューティング ── 切り分けの型を身につける
目安 1週間
このステップの到達点 ── 「つながりません」という曖昧な連絡から、決まった手順で原因の場所を特定できる 。ここが、実務で最も評価される能力です。知識の量より、手順を持っているかどうか が差になります。
大原則 ── 下から上へ、近くから遠くへ
切り分けの手順は、STEP 1で学んだ層の順番そのままです。L1から順に、確認できたところまでを「白」にしていく 。これを機械的に行えば、勘に頼らず原因にたどり着けます。
切り分けの標準手順(この順に、必ず上から)
① 範囲の確認 …「誰が」「いつから」「何ができない」
└ 1人だけ? 全員? 特定のサイトだけ? ← ここで原因の8割が絞れる
② L1 物理 … ケーブル、ランプ、電源
└ ipconfig / ip link show でリンク状態を確認
③ L2/L3 自分自身 … 自分にIPアドレスが正しく付いているか
└ ipconfig /all → 169.254 なら DHCP異常で確定
└ ping 127.0.0.1(自分自身が生きているか)
④ L3 同一LAN内 … 隣まで届くか
└ ping デフォルトゲートウェイ(例: ping 192.168.1.1)
└ 失敗 → LAN内(ケーブル、スイッチ、VLAN設定)の問題
⑤ L3 外部 … インターネットまで届くか
└ ping 8.8.8.8(名前を使わずIPで試すのが重要)
└ 失敗 → ルーター、回線、NAT の問題
└ tracert / traceroute でどこまで進むか確認
⑥ 名前解決 … 名前が引けるか
└ nslookup www.example.com
└ 8.8.8.8 は通るのに名前が引けない → DNSの問題で確定
⑦ L4/L7 サービス … 相手のポートが開いているか、中身が返るか
└ Test-NetConnection host -Port 443 / nc -vz host 443
└ curl -I https://host
この手順の価値 慣れた技術者は、①の質問だけで原因の見当を付けます。「1人だけ」なら端末かポート、「フロア全員」ならスイッチかVLAN、「全社」ならルーターか回線、「特定のサイトだけ」ならDNSか相手側 。まずこの切り口を身につけてください。闇雲に再起動するより、はるかに速く解決します。
コマンド早見表 ── これだけ覚えれば戦える
pingの読み方 ── 数字に意味がある
pingを、意味のある形で打つ コピー
# Windows:回数を指定、連続実行、サイズ指定
ping 8.8.8.8 -n 10
ping 8.8.8.8 -t # 止めるまで continuous(Ctrl+C で停止)
ping 8.8.8.8 -l 1472 -f # 分割禁止で大きなパケット(MTUの確認)
# Mac / Linux
ping -c 10 8.8.8.8
ping -s 1472 -M do 8.8.8.8
出力の読み方
64 bytes from 8.8.8.8: icmp_seq=1 ttl=118 time=8.42 ms
--- 8.8.8.8 ping statistics ---
10 packets transmitted, 10 received, 0% packet loss
rtt min/avg/max/mdev = 8.21/8.90/9.87/0.52 ms
time(往復時間) :同一LAN内なら1ms未満、国内のサーバーなら10〜30ms、海外なら100ms超が目安
packet loss :0%が正常 。数%でも出ていれば異常。会議の音声が途切れる原因になります
ばらつき(mdev/ジッター) :平均が良くても揺らぎが大きいと、音声や映像は乱れます
ttl :残りの生存回数。値から、途中で通過したルーター数を推測できます
「pingは通るのにWebが見えない」 これはよくある状況で、原因はほぼ2つに絞られます。①DNSが引けていない (IPでは通るのに名前で通らない)、②相手の443番だけが遮断されている (ファイアウォールやプロキシの設定)。層で切り分ける習慣があれば、数分で判別できます。
tracerouteで、どこまで進んだかを見る
経路をたどる コピー
# Windows
tracert -d www.iana.org # -d で名前解決を省略して速くする
# Mac / Linux
traceroute www.iana.org
mtr www.iana.org # 経路と損失を継続表示(最も便利)
読み方
途中の * * * は、必ずしも異常ではありません 。応答を返さない設定のルーターは普通に存在します。異常と判断してよいのは、そこから先がすべて届かなくなっている 場合です。また、1行目(自分のゲートウェイ)で止まる なら社内の問題、2〜3行目(回線事業者側)で止まる なら回線の問題、と切り分けの境界が見えてきます。
やってはいけない対応
まず再起動する ── 直ることはありますが、原因が消えて再発します 。せめて再起動前に ipconfig /all の結果を保存しておく
複数の設定を同時に変える ── どれが効いたか分からなくなる。1回に1つ
記録を取らない ── いつ何をして、どうなったか。これが翌日の自分と、次の担当者を助けます
推測で断定する ── 「たぶん回線障害です」と伝えて違った場合、失う信頼は大きい。確認できた事実と、推測を分けて話す
一問一答
「インターネットにつながりません」と連絡を受けました。最初に確認すべきことを2つ挙げてください。
ping 8.8.8.8 は成功し、ping www.google.com は失敗しました。原因はどこにありますか。
tracerouteの途中に * * * が出ました。これは必ず異常ですか。
pingは通るのにWebページが表示されないとき、考えられる原因を2つ挙げてください。
解答を見る
影響範囲(1人か、フロアか、全社か)と、いつから発生しているか。あわせて直前に何か変更がなかったかも確認する。
DNS(名前解決)。IPアドレスでは到達できているので、L3までは正常。
異常とは限らない。ICMPに応答しない設定のルーターは多い。その先も含めて到達しない場合に問題と判断する。
DNSが引けていない、または対象ポート(443など)がファイアウォールやプロキシで遮断されている。
このステップは理解できた
STEP 13
運用
監視・ログ・パケットキャプチャ ── 起きる前に気づく
目安 5日
このステップの到達点 ── 監視で「何を」「どう」見るかを説明でき、Wiresharkで自分の通信を観察できる 。障害が起きてから調べるのではなく、予兆で気づく という運用の発想を持つ。
監視の3つの層
SNMP (エスエヌエムピー)は、機器から情報を集める標準的な仕組みです。監視サーバーが各機器に定期的に問い合わせ(ポーリング)、逆に機器側から異常を通知することもできます(SNMPトラップ )。Syslog (シスログ)は、機器のログを1か所のサーバーに集める仕組みです。
ログは、必ず外部に集めます 機器の中のログは、容量が小さく古いものから消え、機器が壊れると一緒に失われます 。障害のときに見たいのは、まさにその失われた部分です。Syslogサーバーを立てて集約するのは、規模を問わず最初にやるべき運用整備の一つです。あわせてNTPで全機器の時刻を合わせておく こと。時刻がずれていると、複数機器のログを突き合わせられません。
何を、どのくらいで警告するか
回線使用率 :70%を超えたら注意 。100%になってからでは遅い。バースト(瞬間的な跳ね上がり)も見る
CPU・メモリ :平常時との差を見る。急に上がった=何かが変わった
エラーカウンタ :スイッチのポートのエラー数。増え続けるならケーブルや機器の劣化 。断線の予兆
パケットロス・遅延 :0%からの変化。会議品質の悪化として先に現れる
証明書の有効期限 :30日前に警告 。期限切れは毎年どこかで起きる定番の事故
警告を出しすぎると、誰も見なくなります 監視の最大の失敗は、意味のない警告メールが1日に何百通も届く状態 です。こうなると、本当に重要な警告が埋もれます。「鳴ったら必ず誰かが行動する」 ものだけを警告にし、それ以外は記録にとどめる。これが運用設計の要点です。
パケットキャプチャ ── 実際に流れているものを見る
推測ではなく事実 を見る、最終手段がパケットキャプチャ です。Wireshark (ワイヤーシャーク)という無料ソフトが標準的に使われます。
コマンドで取る(tcpdump / Windows) コピー
# Linux / Mac:eth0 のHTTPS通信だけを表示
sudo tcpdump -i eth0 port 443 -nn
# ファイルに保存して、あとでWiresharkで開く
sudo tcpdump -i eth0 -w capture.pcap
# 特定の相手との通信だけを見る
sudo tcpdump -i eth0 host 192.168.1.50 -nn -v
# DNSのやり取りだけを見る(学習に最適)
sudo tcpdump -i eth0 port 53 -nn
# Windows(標準機能。あとでWiresharkで開ける)
netsh trace start capture=yes tracefile=C:\temp\net.etl
netsh trace stop
最初の練習 Wiresharkを起動し、フィルタに dns と入れた状態で、ブラウザで適当なサイトを開いてみてください。STEP 6で学んだ名前解決が、目の前で実際に流れます 。「Standard query A www.example.com」→「Standard query response A 93.184.x.x」。教科書の図が現実になる瞬間で、ここで理解が一段深まります。
キャプチャは、必ず許可を得てから パケットキャプチャは、他人の通信内容を取得しうる行為 です。会社のネットワークで実施する際は、必ず責任者の承認を得てください。取得したデータには個人情報や認証情報が含まれる可能性があり、保管と廃棄にも注意が要ります。自宅の自分の端末で練習する分には問題ありません。
一問一答
死活監視・性能監視・ログ監視は、それぞれ何を見る監視ですか。
機器のログを外部のSyslogサーバーに集める理由を2つ挙げてください。
スイッチのポートのエラーカウンタが少しずつ増えています。何が起きていると考えられますか。
監視で警告を出しすぎると、なぜ問題なのですか。
解答を見る
死活監視は生きているかどうか、性能監視は使用率や負荷、ログ監視は機器で起きた事象の記録。
機器内のログは容量が小さく上書きで消えるため。機器自体が故障するとログも失われるため。(あわせて複数機器を横断して調べられる利点もある)
ケーブルやコネクタの劣化、機器の故障の予兆。断線する前に交換を検討する。
本当に重要な警告が大量の通知に埋もれ、誰も確認しなくなるため。
このステップは理解できた
STEP 14
セキュリティ
ネットワークセキュリティ ── 境界防御からゼロトラストへ
目安 1週間
このステップの到達点 ── ファイアウォールのルールを自分で書ける。VPNの種類を使い分けられる。「なぜ境界防御だけでは足りないのか」 を、自分の言葉で説明できる。
ファイアウォール ── 通す通信を、明示的に決める
ファイアウォールは、通信の条件を見て、通すか捨てるかを判断する機器 です。判断に使うのは、送信元IP・宛先IP・宛先ポート・プロトコル・通信の向きです。
設計の原則は一つだけ、デフォルト拒否(ホワイトリスト方式) です。「危ないものを塞ぐ」のではなく、「必要なものだけ通し、残りは全部捨てる」 。危ないものを列挙する方式は、必ず漏れます。
ルールは上から順に評価され、最初に一致したものが適用される
番号 送信元 宛先 ポート 動作 目的
────────────────────────────────────────────────
10 192.168.10.0/24 any 80,443 許可 社員のWeb閲覧
20 192.168.10.0/24 192.168.30.10 445 許可 ファイルサーバー
30 192.168.20.0/24 192.168.0.0/16 any 拒否 来客→社内は全遮断
40 192.168.20.0/24 any 80,443 許可 来客のWeb閲覧のみ
50 any 192.168.99.0/24 any 拒否 管理VLANへの接触禁止
────────────────────────────────────────────────
999 any any any 拒否 ★暗黙の全拒否(最後の砦)
※ 順番が命。30 と 40 を入れ替えると、来客が社内に入れてしまう
※ 最後は必ず「全部拒否」。ここに到達したものは、想定外の通信
ルールの順番を間違えると、設定した意味がなくなります 上の例で、40番(来客のWeb許可)を30番より上に置くと、宛先が社内であっても80/443なら通ってしまいます。拒否ルールは、対応する許可ルールより必ず上 。レビューでは、この順序を最優先で確認します。
ステートフルインスペクションという当たり前
現代のファイアウォールは、通信の状態を覚えています 。内側から外へ出た通信に対する返事は、自動的に通します 。これをステートフルインスペクション と呼びます。だからこそ「外から中への接続だけを拒否する」という設定が成立します。もしこれがなければ、返事の通信ごとに手で穴を開ける必要があり、実質的に運用できません。
VPN ── 公衆回線の上に、専用の通り道を作る
VPN機器の脆弱性は、いま最も狙われています 近年の大規模な情報漏えい事件の多くが、VPN機器の未更新の脆弱性 から侵入されています。VPN機器はインターネットに直接面しているため、公開された脆弱性は即座に攻撃対象になります。ファームウェアの更新を、最優先の運用タスクとして計画に組み込む こと。これは知識ではなく、実務の姿勢の問題です。
境界防御の限界と、ゼロトラスト
従来の考え方は境界防御 でした。「社内は安全、社外は危険。境目にファイアウォールを置いて守る」。しかし、この前提はすでに崩れています。
クラウドを使うため、守るべきデータが社内にない
在宅勤務で、社員が社外から働く
侵入されれば、社内は無防備 (内部で自由に横移動される)
そこで登場したのがゼロトラスト です。「何も信用せず、毎回確認する 」という考え方で、次の3つが柱になります。
すべてのアクセスを検証する ── 社内からでも、毎回認証する
最小権限にする ── 必要な人に、必要な範囲だけ
常に記録し、監視する ── 侵入される前提で、異常を早く見つける
誤解しやすい点 ゼロトラストは製品名ではなく、考え方 です。「ゼロトラストを導入した」という言い方は、本来は正確ではありません。多要素認証、端末の健全性確認、通信の可視化、権限の最小化などを、積み重ねて近づいていくもの です。そして、ファイアウォールが不要になるわけでもありません。
代表的な攻撃と、ネットワーク側の対策
ランサムウェア対策で、ネットワーク担当ができること 感染そのものを防ぐのは端末側の役目ですが、被害の範囲を決めるのはネットワーク設計 です。全端末が全サーバーに自由に到達できる構成なら、1台の感染で全社が暗号化されます。VLANで分離し、通信を必要最小限に絞り、バックアップは通常のネットワークから切り離す 。この3つで被害は桁違いに小さくなります。
一問一答
ファイアウォールの設計原則「デフォルト拒否」とは何ですか。なぜそうするのですか。
ステートフルインスペクションがあると、何が便利になりますか。
境界防御だけでは不十分とされるようになった理由を2つ挙げてください。
ランサムウェアの被害範囲を小さくするために、ネットワーク設計でできることを挙げてください。
解答を見る
必要な通信だけを明示的に許可し、それ以外はすべて拒否する方式。危険なものを列挙する方式では必ず漏れが生じるため。
内側から出ていった通信の戻りを自動的に許可できるので、返信用のルールを個別に書く必要がなくなる。
データがクラウドにあり社内に閉じていないこと、在宅勤務で社外からの利用が前提になったこと(加えて、侵入後の内部は無防備になること)。
VLANによる分離、通信を必要最小限に絞ること、バックアップを通常のネットワークから隔離すること。
このステップは理解できた
STEP 15
セキュリティ
クラウドのネットワーク ── 同じ原理を、画面の中で組む
目安 5日
このステップの到達点 ── クラウドのネットワーク用語を、これまで学んだ物理の世界の用語に翻訳できる 。VPCを自分で設計し、なぜパブリックとプライベートに分けるのかを説明できる。
クラウドでも、原理は何も変わらない
安心してください。クラウドのネットワークは、これまで学んだことの言い換え です。ケーブルを挿す代わりに画面で設定するだけで、IPアドレスもサブネットもルーティングもファイアウォールも、まったく同じ考え方で動いています。
VPCの基本設計 ── パブリックとプライベート
最も基本的なVPC構成(2層構造)
┌──────────────── VPC 10.0.0.0/16 ────────────────┐
│ │
│ ┌── パブリックサブネット 10.0.1.0/24 ──┐ │
│ │ ・ロードバランサ │ │
│ │ ・NATゲートウェイ │──▶ インターネット
│ │ ・踏み台サーバー │ ゲートウェイ
│ └──────────────┬─────────────┘ │
│ │ │
│ ┌── プライベートサブネット 10.0.2.0/24 ─┐ │
│ │ ・アプリケーションサーバー │ │
│ │ ・データベース │ │
│ │ (インターネットから直接到達できない) │ │
│ └──────────────────────────────┘ │
└────────────────────────────────────────────────┘
・パブリック … インターネットゲートウェイへの経路を持つサブネット
・プライベート … その経路を持たない。外に出るときだけNAT経由
★「公開が必要なものだけ、外から見える場所に置く」
これは物理の世界でDMZを作るのと、まったく同じ考え方
パブリックとプライベートの正体 両者の違いは、ルートテーブルに「インターネットゲートウェイ宛の経路(0.0.0.0/0)」があるかどうか だけです。特別な魔法はありません。STEP 4で学んだデフォルトルートの話が、そのまま出てきています。
セキュリティグループとネットワークACL
初学者が必ずはまる罠 ネットワークACLはステートレス です。往きを許可しても、戻りの通信(動的ポート 1024〜65535)を別途許可しないと通信できません 。「セキュリティグループは正しいのに繋がらない」というとき、これが原因のことが非常に多いです。
クラウド設計での定番の失敗
VPCのアドレス範囲を、社内と重ねてしまう ── あとで専用線やVPNで接続するとき、重複していると接続できません 。将来つなぐ可能性があるなら、社内の設計台帳と突き合わせてから決めます
サブネットを小さく取りすぎる ── クラウドのサブネットは後から広げられません 。/24 程度で余裕を持たせます
データベースをパブリックに置く ── 世界中からアクセス可能な状態になります。実際の情報漏えい事故の典型例です
0.0.0.0/0 からのSSH(22番)を許可する ── 数分で総当たり攻撃が始まります。接続元IPを限定するか、踏み台やセッション管理機能を使います
一問一答
パブリックサブネットとプライベートサブネットの違いは、技術的には何ですか。
セキュリティグループとネットワークACLの違いを2つ挙げてください。
VPCのアドレス範囲を決めるとき、社内のネットワークと重ねてはいけないのはなぜですか。
データベースサーバーをプライベートサブネットに置く理由を説明してください。
解答を見る
ルートテーブルにインターネットゲートウェイ宛のデフォルトルート(0.0.0.0/0)があるかどうか。
適用単位(サーバー単位かサブネット単位か)と、状態を記憶するかどうか(ステートフルかステートレスか)。ほかに拒否ルールが書けるかどうか。
将来VPNや専用線で接続したときにアドレスが衝突し、経路を正しく決められなくなるため。
インターネットから直接到達できないようにして、攻撃対象になる面を減らすため。外部へ出る通信が必要な場合はNATゲートウェイ経由にする。
このステップは理解できた
STEP 16
実務
実務で通用するために ── 設計書・変更管理・学び続け方
目安 継続
このステップの到達点 ── 技術以外に現場で求められること を知り、次に何をすればよいかが決まっている。ここまで来れば、あとは実務での経験が知識を仕上げてくれます。
技術力より先に信頼されるのは、この3つ
記録を残す人 ── 「なぜこの設定にしたか」が書いてある。半年後の自分と、次の担当者が助かる
事実と推測を分けて話す人 ── 「確認できたのはここまで、ここから先は推測です」と言える
止める判断ができる人 ── 「今日の作業は中止して、明日やり直します」と言える。無理に進めた作業が、いちばん大きな事故になります
ネットワーク作業の進め方
① 要件 何台つながるか、何を止めてはいけないか、予算と期限、将来の拡張
② 設計 構成図・アドレス設計表 ・VLAN一覧・機器一覧・ファイアウォールルール一覧
③ 手順書 作業を1手順ずつ。各手順に「確認方法」と「戻し方」を必ず書く
④ 事前検証 できる限り試す。本番と同じ機器がなくてもシミュレータで確認する
⑤ 作業 手順どおりに、1つずつ。変更前の設定を必ず保存 してから触る
⑥ 確認 設計どおりに通るか、通ってはいけないものが遮断されているか も確認する
⑦ 記録 実際にやったこと、想定と違った点、次回への申し送りを残す
切り戻し手順のない作業は、やってはいけません 「うまくいかなかったら、どうやって元に戻すか」を書いていない作業計画は、承認されるべきではありません。深夜の作業で失敗し、戻し方が分からず朝を迎える——これが現場で最も恐れられる事態です。戻し方を書く時間は、作業時間の一部 だと考えてください。
設定のバックアップ スイッチやルーターの設定は、
変更のたびにファイルとして保存 し、日付を付けて残します。機器が壊れたとき、この1ファイルがあるかないかで、復旧が30分か3日かに分かれます。可能なら、Gitで世代管理すると変更履歴が追えて理想的です(
Git・GitHubの学習ページ も参考にしてください)。
手を動かして学べる環境をつくる
Cisco Packet Tracer 無料
Cisco社の学習用シミュレータ。機器を画面上に並べ、ケーブルで結んで設定できる。VLANやルーティングの練習に最適 。実機なしで学べる。
GNS3 / EVE-NG 無料
実際の機器のソフトウェアを動かせる、より本格的なエミュレータ。少し重いが、実機に近い挙動を試せる。
仮想マシン+Linux 無料
VirtualBoxなどで2台のLinuxを立て、ルーティングやファイアウォール(iptables)を設定してみる。手を動かす価値が非常に高い 。
中古の実機 数千円〜
中古のインテリジェントスイッチを1台買って、コンソールケーブルでつないでみる。実機の緊張感は、学習効果が違います 。
クラウドの無料枠 条件付き無料
AWSなどでVPCとサブネットを作り、サーバーを2台立てて通信させてみる。課金設定の確認だけは慎重に 。
自宅のネットワーク すでにある
自宅の構成図を描く。ルーターの管理画面を開き、DHCPの範囲やポート開放の設定を読んでみる。教材は目の前にあります 。
資格 ── 順番と、意味のある使い方
資格との付き合い方 資格は学習範囲を決めてくれる道具 として優秀です。独学だと得意な分野ばかり読んでしまいますが、試験範囲があれば苦手も埋まります。一方で、資格だけでは実務はできません 。「CCNAの勉強をしながら、自宅で同じ構成をPacket Tracerで組む」という進め方が、最も費用対効果が高い方法です。
これから半年、何をするか ── 具体的な計画例
1〜2か月目:土台をつくる
このページのSTEP 0〜8を通読し、コマンドをすべて自分の端末で実行します。とくにSTEP 3のサブネット計算は、紙に書いて50問以上 解いてください。ここが速くなると、以降がすべて楽になります。
3〜4か月目:組んでみる
Packet Tracerで、STEP 10の構成図を再現します。VLANを3つ作り、L3スイッチでVLAN間ルーティングを設定し、片方から片方へpingが通ることを確認します。「通らない」状態から、自力で通るようにする経験 が最大の学びです。
5〜6か月目:運用の視点を足す
自宅か検証環境で、Wiresharkによるキャプチャと、簡単な監視(pingの死活監視)を試します。並行してCCNAの学習を始めると、ここまでの実感と知識が結びつきます。
その先
実務に入ったら、自分が触ったネットワークの構成図を、自分の手で描き直す ことを習慣にしてください。渡された図をなぞるのではなく、機器にログインして確認しながら描く。これに勝る訓練はありません。
一問一答
作業手順書に必ず含めるべき、2つの要素は何ですか。
機器の設定変更をする前に、必ずやっておくべきことは何ですか。
ファイアウォールの設定変更後、「通ること」以外に確認すべきことは何ですか。
資格の勉強を、実務力につなげるにはどうすればよいですか。
解答を見る
各手順の「確認方法」と、失敗したときの「切り戻し手順」。
変更前の設定をファイルとして保存しておくこと(あわせて影響範囲と作業時間帯の合意)。
通ってはいけない通信が、意図どおり遮断されているかどうか。
学んだ構成を、シミュレータや検証環境で実際に組み、動かない状態から自力で解決する経験を積む。
このステップは理解できた
条件に合うステップがありません。キーワードを変えるか、「すべて」を選んでください。